自らの横たわったベッドが軋んだのは、沢村が片膝の一歩だけにじり寄り、距離を詰めてきたからだ。
見上げてちょうどいい位置、つまりは真上に相手の顔と体がある。人間天蓋沢村。うん、なんて贅沢。
「どうしたんだよ」
質問の意味が飲み込めず、相手を見つめた。
「アンタが全然喋らないなんて珍しい」
ああ、と合点がいった。なんだ、単純にそのことか。
肌を重ねるとき、いつもなら何か喋るけれど、今日に限っては口を利いていない。
そもそも普段にしたって相手の反応を引き出すために二、三言喋るだけで、自分は別にこういうときにお喋りな方ではない。と、思う。誰と比較したでもないが。
照明を完全に落とした部屋の中、相手の目だけが外の光を受けて光っている。――そしてもうひとつ、時計の針の夜光塗料。
長針と短針が根元で触れ合っている。キリのいい時間に綺麗に重なることのないそれがもどかしいとたまに思う。
二つの針は先端に行くにつれて離れ、その間をさらに細い、光らない針が動いていく。
その間に、相手は数度瞬く。強い瞳を睫毛が覆うと、愁いているようにも見える。
相手を視界にとらえこそすれ、こっそり見ていたのはその後ろだった。
息継ぎの形に口を開いたまま、曖昧に唇を動かす。ゆっくりと、本当に息を吸ってもみる。
――、12。つまり0。
「全部嘘になっちゃう気がしたから」
真っ直ぐに相手の目を見て言えた。途端に、その目が大きく見開く。
言葉を探す振りをして時間を稼いだ。それは悟られなかったようだけれど、沢村はぱっと後ろを振り向いてこちらの意図するところに気づいてしまう。
秒針は1の字をすり抜けていくところだった。
「馬鹿だな」
脱力したように息を吐いて、静かに沢村が呟く。不思議と、呆れた風ではない。
「気にせずなんでも喋ってりゃいいだろ。いつも出まかせばっかり言ってるくせに」
「こーゆー時は俺本当のことしか言わないだろ?」
好きとかさ、と言ってやれば沢村がクスクスと笑った。
「馬鹿だ」
言いながら、体重をかけてくる。今度は、甘い響きすら感じられた。
「四月馬鹿は昨日だぜ?」
「アンタは年中だろ」
あんまり酷い台詞を連呼してくるものだから文句を言うと、さらに酷い台詞が返ってくる。
やはりそれでも沢村は穏やかな顔をしていて、俺からすればその優しい眼のほうが嘘のようで、確かめるために手を伸ばした。
触れると、嘘でもなんでもなくそこに相手はいるとわかった。
それじゃあ作り物かと真剣に考えかけ、そういえば四月一日はついさっき終わったと自分の疑り深さに笑ってしまう。
終わったんだ。実感が湧くと、沢村がさっき言った通り好き勝手言ってやろうという思いが起こった。
手始めに告白でも。相手の首を引き寄せて耳に言葉を吹き込めば、沢村の浮かべた笑みがさらに濃くなる。
その顔を見ていたら、嘘をついても許される日がまだ続いている、そんな気がした。






2007/04/02