プトレマイオスには、基本的に緊張感がない。
おまけに、運動神経も戦闘能力もない。
とは言え、飽きるほどに狙われ続けていれば感覚くらいは澄んでくる。
例えばある日の市場で。
「……?」
振り返り天を仰ぎ見たプトレマイオスに、バーティミアスも足を止める。
「どうした? ……げ、狙撃手か、あれは」
「逃げていったね。よかったよかった。見られてまずいなら顔まで隠してればいいのに」
清々しく微笑するプトレマイオスとは対象的に、不覚、とばかりに顔を顰め、バーティミアスは主人に言った。
「おまえさん、おれの護衛がなくても平気だな」
「何を言ってるのさ、本当に撃ってきたら危なかったじゃない」
あっけらかんと言われ、忠実なるしもべは続けるべき言葉を失った。


そして、また今日も。
「――レカイト?」
どう見ても無機物でしかない小さな像に声をかける姿は奇異、としか言いようがない。
だが、その像は声をかけられるや否や形を歪め、理知的な印象を与える学者に姿を変えた。
いともあっさり見破られ、苦さを感じるのも飽きた、という表情をしている。
「……おまえさんには第七くらいまで目があるんじゃないか」
「目? なんのこと? ぼくの知らない話だったら聞かせておくれよ」
間髪入れずに答えるプトレマイオスの目はキラキラしていて、まったくいつもの通りだ。
バーティミアスは、そろそろ馬鹿馬鹿しくなってくる。
「ああ。話してやる。戻った後でゆっくりとな」
「やった! しかし、まったくきみは悪戯が好きだね」
「おまえさんには通じないようでがっかりだよ」



『ハイド・アンド・シーク』
20070130(0131 up)0917修正