天鵝絨の帳は闇の色をしている。きっと外の夜と同じ色だ。
宛てがわれた広い屋敷は、つまりひとつの大きな空洞だった。漂う空気は静かに冷たい。
それでも、目の前の体温よりはマシだ、と思う。
「……っ」
頬に触れて確かめると、わずかに身じろいだだけでいつものような抵抗はみせない。
けれど、それは決して自分を受け入れたゆえのことではない。
「ふ……っ」
合わせた唇を舐め上げ、無防備なままの彼の口内に舌を侵入させる。
絡めて、吸い付いて、普段は触れられないその味を気の済むまで味わう。
蹂躙し続けると、彼の呼吸がわずかに乱れ始め、一瞬の充足を自分に与えた。
ユウは、時々こうやって自分を投げ出す。辺りに満ちた死の気配を感じ取ったとき、人形に成り果てる。それが本当に気に入らなかった。
「生きたい」と云う言葉の裏に、いつも「何もいらない」と聞こえる。
だから、彼の願いも、希みも、本当は簡単に折れてしまうのだろう。
「なあ、ユウ」
反応は返らない。冷たい肌に指を滑らせながら、続ける。
「お前、そのうち死ぬよ?」
「……死なねェよ」
油の切れたゼンマイ細工のような、かすれた声。
それが引き金になったのか、オレはユウを柱に押し付けていた。
晒された喉に噛みつく。声の源に、静脈に、ギリギリと歯を食い込ませる。
「痛……う……」
苦痛に歪む顔が見える。
何をされているか理解したユウの瞳が、やっと俺を映す。
「何……」
さらに力を込める。血の滲む寸前まで。
「離れろ!!」
強い力で胸を押された。俺はユウに向けてふっと笑ってやる。
「お前は詰めが甘いんだよ」
「何言ってんだ」
「そんなんで生きたいなんて、笑わせるさ」
噛みあとをなめてやる。首に触れた手に、脈が伝わる。
そうして再び、唇を重ねた。ユウがもがく。
「お前の手と口は熱ちぃんだよ」
上気した顔がうっすらと赤くそまっている。
「生きてるんさ」
柔らかく笑んで、今度はユウから口付けてきた。




















な に こ れ
砂しか吐けなくなりました。自分がキモチワルイヨー
「喉元に齧りつく」という自分の趣味全開のお題でみんなと競作したときのものです。眼福でした。
2006/10/13 write→2006/10/23 update