きつねといったら赤い、赤いといったら天城、天城といったら……。
 堂島くん、と声をかけられ、無意識に展開していた連想ゲームを打ち切って石段を立った。
 ちなみにこのゲームは、俺が生まれるか生まれないかくらいの頃のとある番組で好評を博していたらしい(ソース:叔父さん)。
 俺たちがどいたあたりに立って、参拝客は熱心に手を合わせている。これでも標準的な日本人くらいには信心深かったのだが、今は祈る姿を見ても「ふーん」としか思わない。第一、その願い叶えてるの俺だし。
 サンタの真実はかなり早いうちに知ってしまったので、これ以上崩される夢はないと安心していたのだけど、甘かった。この歳になって神様の不在をこうもはっきり見せ付けられるとは。
 神様だけにこっそりばらしてたことも、今は誰にも言えなくなってしまった。神の名前のペルソナは手に入れたけど。
 上を見上げるとキツネがそれはそれは嬉しそうにしていた。無邪気と言えなくもないけど、すっげー悪い(当神社比)笑みだ。
 客の背中を見送って、ぽつり、呟いた。
「……みんな、好きだな。迷信とか、神様とか」
 マヨナカテレビとか。ありがたい情報源だけれど広まるのをよしとするかは別問題だ。あれが広まっているおかげで余計神経を張るはめになる。
 神様好きというなら、遊ぼうというとやたらとここを所望する天城もある意味そうかもしれない。天城の場合、噂のたぐいにはあまり興味がなさそうだけど。
「堂島くんは、ないの? お祈りしたいこととか」
「そりゃ、それなりに、あったけど」
 知りたそうな顔をしているけれどそれ以上突っ込んではこない。天城はここで安易に恋愛話などに走らないので気が楽だ。
「今は、違うんだ」
「ん」
 俺にも叶えたい願いや叶えたい恋の一つや二つくらい、ある。恋は二つもいらないけど。
「あんま、お祈りする気は、ないっていうか」
「うん?」
「そんなに叶えたい願いなのに神様に丸投げしちゃうってのは誠実じゃなくない?」
 なんて言ってみたけど、ただの逃げ。信じていないだけだ。それに、神様に言えるようなことじゃない。
 今現在事件(これは自分でどうにかすることリストの筆頭)のほかに切羽詰ってることはひとつだけ。
 この町に来る前の自分なら間違いなく神頼みに走っていただろう。けれどその仮定は成り立たない。この町に来て初めて、自分の中に生まれた願いだから。
 信じられないことに、同性を好きになった。会って一週間経たないうちに人を「相棒」などと呼んだ暖色系の男。
 けれど当然相手は女が好きで、さらに彼の中にはある人へ特別な想いが根付いている。俺はそれを絶対に越えられない。そして彼女は文字通り、手の届かない場所へ行ってしまった。
「うーん……」
 天城が深く眉を寄せ、考え込むようにした。そして呟く。それは違うんじゃないかな、と。
「神様の前で宣言しちゃうくらい真剣、ってことじゃないかな」
「……え」
 一瞬、自分の思考が止まる。考えもしなかったことを言われた。なおも天城は言葉を紡ぎ続ける。持ち前の聡明さでもって、馬鹿な俺でもわかるような言葉を。
「絶対この願いは叶えるぞ、だから力を貸して下さい、って誓うっていうか。たとえ信じてなかったとしても、縋るのは悪いことじゃないと思う」
「天城」
「うん、何?」
「ナイスだ」
 天城の言葉が俺の脳天を貫いた。天啓。お告げ。電撃。いずれにせよ、祈る大義名分が出来たということ。
 財布から五円玉を掴み出して放る。賽銭箱までは少し遠かったけど、見事なホールインワン。
 お行儀のよろしくない行為に天城が咎めるような表情をするが、俺はものすごく機嫌がよかったので気にならなかった。
 告白します。俺は陽介が好きです。あいつに認めてもらえるように一生懸命頑張ります。追伸、神様もしもあなたが存在するのなら、そこで見ててください。
 キツネが楽しげにステップを踏む。今なら、赤いきつねのでか盛を二個買って、一個は天城に、一個はキツネに供えてもいいと思った。









主人公が限りなく単純野郎に。
ゆっこと主人公は気が合いそうだなあという妄想。

2009/03/27→2010/06/17 誤字修正(もうないといいな……)