俺達の通学路:寮⇔学校
以上。


「なあ」
「ん?」
「何かがおかしいよな?」
「何よ。よくあるフツーの下校風景じゃん」
「思いっきりわかってんじゃねーか! フツーの下校をしてることがまずおかしいんだっての!」
思わず叫ぶと、その辺の家の壁に反響する。
嫌な立地条件だろうな。と罪悪感より先に思う。
「お前の声うっさいな。響く」
「アンタがそーゆー声を出させてんだ!」
「うわ、なんかそれエロい」
「誤魔化すな!」
隣で先輩がニヤリと笑う。猫みたいな顔。
日焼けした肌がさらに暗い色に映る。空はもうたっぷりと暮れている。
「寮じゃねー方向に行くからなんかいやな予感はしてたんだ」
「優等生だな。お前の癖に。まっすぐ家に帰りましょう?」
「疲れたの!」
「かーっ、ダメね、お前。今から枯れてちゃ。下校時の寄り道、これぞ高校生活の醍醐味、いや、青春の醍醐味よ!」
「どーでもいいっつの!」
「ふーん。おでん食いたくない?」
「は?」
「買い食いは青春の」
「あーいい。わかった。今まだおでん売ってるの?」
「さあ? 知らん。コンビニなんか一ヶ月くらい行ってねぇ」
「俺も」
「だよな。でもいーや。売ってなきゃ売ってないで、ポテトでも、なんでも」
「奢ってくれんなら」
「流石に払いますよ。先輩ですし?」
大股でゆったりと歩く姿に、下駄でも履かせたら似合いそうだなと思った。そういえば下町の人間だったか。
そうして暫く見ていると、先輩が鞄を持ったまま伸びをした。ナイロンの音がする。
「ああ、」
「ん」
「ついでにさあ、川の方出てみる? 今きっと、桜すごいぜ」
「学校で見飽きた」
「まーたお前は。数が違げぇって」
「ふーん。そんで、俺の地元の方が凄かったら、俺がっかりしますよ」
「そんなら今度連れてってよ。見たい」
「んー、気が向いたら」
のらりくらりと言葉を返す。練習の後は身体が悲鳴を上げるだけじゃなく、意識まで朦朧としてくる。
しかし、はっと思い出して意識が戻る。
「そうだ!」
「何?」
「戻らなかったらまずいっしょ。煩いきっと」
「あーそれなら」
ぱかりと携帯を開き、
「こーすればOK」
画面をブラックアウトさせる。
「楽しまなきゃ損っしょー。花の命は短いんだしさ」
ああ、これ何度目? と先輩が笑う。
つられて、なんだか俺まで楽しくなってくる。
夜はまだ冷えるけれど、確実に柔らかくなった空気。
吹いてきた風からは、甘い花の匂いがした。






2007/03/22