「王様になりたい」 そう王様が言いだした。至って真顔だ。 他に誰もいない部屋。俺を座らせて、自分もその正面に腰を下ろして。その意図はわからない。 「……自分を呼んだのは」 「お前にも関係あるから」 鳴さんは開いて置いてあった雑誌を引き寄せて、俺の目の前に差し出した。 『都のプリンス 快進撃』。眩いばかりの大見出しの横、腕を振り抜いた鳴さんの写真が載っている。 「この肩書きを変える」 そう、俺の目を真っ直ぐ見て言う。返すべき言葉を探していると次第に鳴さんの顔が赤くなり、口を尖らせてそっぽを向いた。 「……お前の芝居みたいな言い方がうつった」 「なっ」 ビッグマウスは元々鳴さんの十八番だ。が、言うとさらに拗ねそうなのでぐっと飲み込む。 「……つまり、名実共に王者になるって」 「そういうこと」 雑誌を閉じて下ろし、一歩、二歩、膝でにじり寄ってくる。 「樹、俺は、誰にも負けない」 「はい。俺も、そう思います」 「でも、一人じゃダメだから」 ずっと憧れ続けている、向き合った者をねじ伏せる左腕。その手首から先が強く握られ、俺の胸に突き付けられる。 「付いてこい」 その固い感触が、衝撃が、全身に回って震えが止まらなくなって、 「だっせ」 と俺は鳴さんに笑われたのだった。 2014/05/01 |