恥ずかしい話だが、自称参謀のクセにオレはあまり頭がよくない。
 ここでいう頭がよくないとは、勉強のことではなく(勉強もそうだけど)、周りが見えなくなりやすいということだ。事件に関わっているうちにわかった――いや、正直に言うなら、初めて自分の意思でテレビに入ったときから、わかっていた。
 だから、あいつに好きだと言われたときも舞い上がるばかりで、「本当に?」とは思っても「なんで?」とまでは思考が回らなかった。
 今更、理由を聞けるはずもない。
「実際、人を好きになる決め手ってどこかねェ」
 呟いてしまってから、人選ミスに気付く。こいつに聞いたって考えるな感じるんだって返ってくるだけだ。オレは頭がよくない、改めオレはバカだ。
 しかし、大人受けの悪そうな明るい色のキノコヘアーの少女は、困ったように首を傾げるだけだった。
「……ていうかさぁ、あたしに聞かなくたってアンタん中にちゃんと基準があるんじゃないの」
「……そりゃごもっとも」
 先輩の名前を出さないのは里中の優しさだろう。横暴で暴力的ですぐ人にたかるけれど、こいつは基本的にとてもいい奴なのだ。人の心の動きに敏感で、そばにいる者に負担をかけない。
(まあ、俺の中には基準らしきものがあるっちゃあるけど)
 さすがに、知りたいのはあいつの基準だとは口が裂けても言えない。
 ただでさえテレビの中なんて得体の知れないモノと戦っているのに、さらなる面倒ごとの元に自分からなるつもりはない。
「ちなみに里中は?」
「え、あたし!?」
 話を振ると、里中は数秒考え込み、誰を思い浮かべたんだか、顔を赤らめた。
「わ、わかんないよ!」
「そっか」
 いいねえ青春だねえ。里中も女の子なんだなあと、妙に納得。勝手にほのぼのしていると、後ろから肩を叩かれた。
「おうわっ!?」
「……お前、人の顔見て悲鳴上げるのやめてくんない」
 流石に今回くらいはご容赦いただきたい。今まさにお前のことを考えていたのだから。我らが、リーダーのことを。
「お前まだ帰らないの」
「や、ボーっとしてただけ。もう帰るけど」
「そう。じゃ帰りちょっと付き合えよ。お前の知りたいこと教えてやるから」
「おう」
 そうですか。……ってはい?
「つかぬことを伺っていいかね」
「何よ」
「お前今の聞いてた?」
「は?」
 思い切り困惑の表情を見せられ、とりあえず疑いは晴れた。だけど、心臓に悪すぎるだろう今の発言は。
「とっとと行くぞ。じゃあな里中」
「あ、うんまた明日ね!」
 ただでさえ歩くのが早いのに、今日の堂島はいやに早足だ。あれよあれよと土手まで引っ張ってこられ、ようやく堂島が足を止めた。
「で? 俺がお前を好きな理由だっけ?」
「!!」
 完全に回避したと思ったら全然回避できてなかった。里中との会話を聞いてたわけじゃなかったのに、どうしてこんなピンポイントで。
 オレは、心の準備なんかできてないのに。
「なんで分かったかって言うともう一人の俺が一晩でやってくれましたー。わーいペルソナ能力様様」
 棒読みで目だけ笑ってます我らがリーダー。怖い。愚者のペルソナ使いマジ怖い。何故こいつにこんなタチ悪い能力が目覚めちまったのか教えてください。
「嘘だよ。なんで信じるんだよ。本当はふわふわの可愛い猛獣様だよ」
「なっ……、クマ!? アナライズ能力かよきったねえ……!」
「違う違う。「ヨースケが変クマよー。何か言いたいの我慢してるみたいな、気になることがあるみたいな」って言うからもうちょい詳しく聞いて、自分でもお前を観察してみたところ、そんな結論に至った」
 十分人間のなせる業ではない。立ち聞き説のほうがまだ信憑性があるというものだ。
 いや、問題はそんなことじゃなく、オレはどんな顔してこいつの話聞いてりゃいいってことだ。ずっと言えなかったことをこうもあっさり暴かれて。
「ていうか合ってたんだ。それに驚いた」
「っ」
「でも陽介自分じゃ絶対言えないから問題ないだろ? ……ごめん」
 何も言わないうちに謝られてしまった。ふてぶてしさに定評のあるこいつがそうするなんて、よほどオレはみじめったらしい顔をしていたに違いない。
 情けないことに、こいつの言ったことは本当だった。
「俺がお前を好きなのはね」
「……うん」
 好きと、改めて言葉にされるとどうしていいかわからなくなる。手足の末端が痺れ、ここにいる自分自身を遠くから見ている感覚。
「好きなものを好きって言えるから」
 堂島は、俺の目を見て、はっきりとそう告げた。それはオレにとってとても衝撃的で、身に余る言葉で、――皮肉だ。
 伝えなくちゃいけない人には、届けられなかったのだから。
「先輩には言えなかったよ」
 大切だった恋は、俺の中の一番苦い思い出になってしまった。たくさんの後悔だけを残して。
 けれどこいつは、表情を変えない。
「言っただろ」
「え? ……あ」
 こいつと、先輩の弟の前で、先輩への想いをバラしてしまったことがあった。でもそれは懺悔みたいなもので、ちゃんと告白するのとは訳が違う。
「本人目の前にして臆面もなく言えるお前のほうがすげぇよ」
 ちょっと拗ねたみたいになってしまった。しかし堂島はにやりと笑う。
「少しはお前見習おうと思ってさ」
「いや、だからオレは……あーめんどくせー!」
「お前は分かってもらえるのを待ってるだけの奴とは違う。自分に誠実で、強い」
 なんで。なんでそんな馬鹿みたいなこと、真顔で言い切るんだ。テレビの外用にメガネ買った方がいいんじゃねえか。
 持ち上げてるだけじゃないのなら、こんな盲目的になれるのは、狂ってるのと同じだ。
「ふはは。こいつ重ぇ、って思ったっしょ?」
 ふっと、堂島の顔が緩む。ペルソナでも付け替えたかのように、視線のプレッシャーがなくなる。
 けれど図星もいいところだったので、オレは目を合わせられない。
「お互い様だよ。俺だって最初思ったもん。なんで会って間もない奴のことこんなに信用しちゃうのかなって」
「!」
 顔が熱くなるのがわかった。自分でだって気付いていた。人との距離を測るのがうまくないってことは。
 それでも、今こうしてこいつの隣にいられるのは大げさでもなんでもなく奇跡だ。
「でも、さっきのは本音だから」
 好きだよ、と釘を刺すように言われて、湧き上がるのは甘い感情よりも、どうしたらこいつに報いることが出来るだろう、なんてあてのない考えだった。









話があっちゃこっちゃ行き過ぎた。
最後までタイトルをこれかストレングスかで迷ったんですが剛毅コミュ話と間違われる可能性に気付いた。

2009/05/01